『ならば方法はありません。あの人魚の男は死ぬまでです。そして琉海もあなたも』

 琉海はふとあることに気づいた。

 なぜ大冴の気持ちと海男の死が関係あるのだ?

 海男は大冴や琉海に関係なく1年経ったら死期を迎えなければならないはず。

 大冴が琉海のことを好きならば海男は死ぬ?

 それはこうも言い換えられないか。

 琉海が大冴を好きなら海男は死ぬ。

 海男は言った。

 1つだけ自分が助かる方法があると。

 琉海は最初それは海男が自分を殺すことだと思ったが、そうではないと海男は言った。

 もしかしてそれは、

 琉海が海男を好きになるということ?

 その法則が成り立つのは……。

 琉海の手からペットボトルが転がり落ちた。

 海男が陸の王子だった場合。


 琉海は自分の着ているコートを脱ぐ。

 M.TACHIBANA

「そ、そんなはずない。だって海男は人魚でしょ」

——満月の夜、またここに来て。

 琉海は町の向こうに見える海辺を見た。

 空の低いところに満月が浮かんでいた。

「琉海」

 名前を呼ばれて振り返ると大冴が立っていた。

 寒いのに額にじんわり汗をかいている。

 文字通り駆けずり回って陸の王子を探したのだろう。

「未來は?」

 訊ねると一旦大冴の別荘に戻り落ち合う約束をしているという。

 2人が別荘に戻るとまだ未來は戻って来ていなかった。

 冷たくなった部屋を温めるために薪ストーブを灯す。

「俺もしかして真人は生きてるんじゃないかと思うんだ」

 大冴は唐突にそう言った。

「だって死体が上がってないんだ。で、もしかしたら記憶を失ったとかなんらかの理由で家に戻って来れないんじゃないかと思う」

「僕も実はそう思った」

 いつの間にか未來が戻って来ていた。

「大冴、真人の写真あるか?」

 未來が訊ねると大冴はうなずいた。