都会と違い夜になると闇に覆われる海辺は海と空の境界線が消え、波音だけが海が自分の存在を知らしめていた。

 月も星も出ていない夜だった。

 琉海が呼ぶとすぐに姉たちは顔を出したが、琉海の横にいる大冴に気づくと驚いて水の中に潜ってしまった。

 が、しばらくするとまた恐る恐る水から顔をのぞかせた。

 その晩は約13人の姉たちが海辺にやってきていた。

「すげぇ、ほんとにいるんだ人魚って」

 初めて見る人魚に大冴は一瞬ひるんだが、すぐに胸を張りいつもの大冴に戻った。

「深海の魔女に会いたい」

 大冴の申し出に姉たちはざわついた。

「なんで深海の魔女に会いたいの?」

 1番年上の姉が大冴に訊いた。

「人間になった人魚が1年で死なないですむ方法が知りたい」

「なんで人間のあなたがそんなことを?」

「姉さんたち、海男が死なないですむ方法を知りたいの」

 琉海が答えると姉たちは顔を見合わせた。

「無理でしょ」「無理」「そんな方法ないわよね」

 姉たちは口々に言い合った。

「だからそれを深海の魔女に聞きたいんだよ」

 大冴の大声に姉たちの囁きがピタリと止む。

「姉さんたちお願い、深海の魔女を呼んできて」

 姉たちはまたお互いの顔を見合わせる。

 なんとなくその中で1番年下の姉に皆の注目が集まる。

 視線を送られたその姉が水の中に潜ろうとしたとき声が聞こえた。

「わたしはここにいますよ」

 暗い海の中から深海の魔女が姿を現した。

 まるで水平線から月が昇ったように辺りが明るくなる。

 大冴は眩しそうに目を細めて深海の魔女を見た。

「あなたは琉海のことを愛してますか?」

 深海の魔女は訊いた。

「あ、あ、愛してって」

 大冴は顔を赤らめてどもった。

 ちらりと琉海の方を見る。

「まだ愛してるとまで言えるのかどうかは分からないけど、こいつのことを大切に想ってるのは確かだ」