「大冴」

 白い顔をした未來が立っていた。

「律が見つかった」

 大冴の体がひくりと動いた。

「律の遺体があがったんだ、大冴」

 大冴はよろけるように立ち上がった 。

「どこでだ」

 律は消えたあの同じ海で見つかった。

 岩場に打ち寄せられていたのを釣り人が見つけたという。

「行くぞ」

 大冴は未來の肩を掴んだ。

「今からすぐに行く」

 未來もそれに答えてうなずく。

 大冴は琉海を振り返ることなくそのまま部屋を出ていった。

「琉海ちゃん」

 未來が琉海に手を差し伸べる。

「一緒に来るかい?」

 戸惑う琉海の肩を未來は優しく叩いた。

「大丈夫、大丈夫だよ。大冴は琉海ちゃんのものだよ、だからなにも心配しなくて大丈夫だから」




 
 海辺の町は時間が止まったように数ヶ月前と何ひとつ変わっていなかった。

 季節も同じせいもあり、まるで時間が1年前に戻ったかのように感じた。

 大冴はここに来るまでひと言もしゃべらなかった。

 ずっと思いつめたような顔をして、ときどき目を閉じ深い深呼吸をする。

 自分を落ち着かせようと一生懸命なのがはたから見てもすぐに分かった。

 1年間も律は海のどこを漂っていたのだろうか。

 そして今になってようやく大冴たちの元へ戻ってきた。

 このタイミングで。

 琉海にはそれに何か意味があるように思え仕方がなかった。

 もしかすると律は止めに現れたのかも知れない。

 大冴を海に連れて行くな、と。




 
 律は暗い小さな部屋に寝かされていた。

「律」

 大冴が震える声で呼びかける。

 未來と琉海は部屋の入り口で大冴を見守っていた。

 大冴はそっと律にかけられた白い布をはがす。

 琉海は思わず驚き声をあげそうになった。

 琉海の肩を抱いていた未來の手からも未來の驚きが伝わってくる。