2人に割って入ったのは町医者だった。

「あんたはこの子のために人魚になってやるつもりはあるんか」

 琉海が大冴に訊きたかったそのものずばりのセリフで琉海の心臓が大きく跳ねる。

「もし陸の王子がすでに死んどるその真人とかいう男やったとしたら、あとは賭けや。深海の魔女はただ試しただけなのかも知れん。たぶん、あれは全てを知っとる」

 深海の魔女は全てを知り、琉海が自分のために人を殺すような姫であるかどうかを見極めようとしているのかもしれない。

 琉海が伝説の海の姫として本当にふさわしい存在かどうかが試されているのなら、それならば琉海が魔女から短剣を受け取らなかった時点で、琉海は合格ということだ。

「海での生活って……どんななんだ?」

 大冴がぽつりと言った。

「大冴……」

「考えてやらないでもない」

 信じられなかった。

 まさか大冴からそんな言葉を聞けるとは。

「あんた意外と度胸のある男やな」

 町医者が感心する。

「別に俺はこれといってここに執着するものもないしな、仕事を頑張ってたのだってこいつが」

 大冴は照れを隠すように咳払いをした。

「ありがとう大冴」

 琉海はたまらずに大冴に抱きついた。

「ま、まだ絶対にそうするって決めたわけじゃないからなっ」

「嬉しい、あたしすっごい嬉しい」

 夢のようだった。

 琉海はこんな幸せなことが自分の身に起きていいのかと怖いほどだった。

 死ななくてよかった。

 本当に生きてて良かった。

 大冴の肩越しにさっきまで海男がいた部屋の扉が見えた。

 海男には感謝してもしきれない。

「お爺さん、どうにかして海男も助ける方法はないの?」

 それとも深海の魔女だったらその方法を知っているだろうか。

「あの人魚の男やけどな、ちょっと気になることがあるんや」

「気になること?」

「普通の人魚とちょっと違う気がすんのや」

「え?」

 そのとき部屋の扉が開いた。