「海男は?海男は今どこ?」

「隣の部屋におる。はっきり言っておまえさんに血をあげすぎておまえさんより重症や。本当やったら絶対にそんなことはせん。やけどおまえさん達は事情が違うからな」

 町医者はどのみち残り少ない海男の命を知って琉海を助けさせたのだろう。

 海男。

 温かかった琉海の体がまた冷たくなっていく。

 海男。

「琉海」

 部屋の扉が激しく開き大冴と未來が入って来た。

 駆け寄って来た大冴が琉海を抱きしめようとしてためらう。

「大丈夫、もうすっかり治っとる」

 町医者の言葉で大冴は琉海を強く抱きしめる。

「よかった、琉海よかった」

 大冴の肩越しに隣の部屋へと続く扉が見えた。

「海男」

 琉海にその部屋に横たわる冷たくなった海男が見えた。

「海男」

 琉海は大冴の腕を振りほどく。

「琉海?」

「海男」

 琉海はベッドから降りると裸足のまま駆けた。

 扉を開ける。

 そこに。

 乱れたベッドの上には誰もいなかった。

 部屋に1つだけある窓が開いていて、カーテンが風で揺れている。

 ほおっ〜、と町医者が感嘆の声をあげた。

「さすがやな」

 琉海はベッドに顔を近づける。

 うっすらと潮の香りがした。

 海男の匂いだった。

「よかった、海男、よかった」

「海男って誰だ?」

 大冴が訊いた。

 それに答えたのは町医者だった。

 男の人魚の存在に大冴は驚いていたが、前に琉海が言っていた男が人魚の海男だと知ると納得したようだった。

「琉海ちゃん」

 ずっと黙っていた未來が口を開いた。

「大冴から琉海ちゃんのことは聞いた。でもちゃんと琉海ちゃんの口から全てを聞かせてくれないかな」

 大冴も未來に続く。

「おまえ他になにか俺に隠してることあるだろう」

 琉海を心配し2人ともほとんどこの3日間寝ていないのだろう。

 大冴も未來も落ち窪んだ目をし憔悴しきった顔をしていた。

 これ以上そんな2人に嘘をつき続けることはできない。

 琉海は全てを話す決意をした。