海男、でもあたしはこのまま死んでしまうかも知れない。

 海男より早く死んでしまうかも知れない。

 ごめん、海男。

 琉海の意識は冷たい海の中に落ちていく。

 寒くて、暗い海の底へ。 





 右腕に小さな炎が灯されたような感触があった。

 そこから温かいものが流れこんでくる。

 最初それは細い糸のようだった。

 でもその細い糸は根気よく琉海の体に流れ込んでくる。

 指先、腕、肩、胸。

 凍りそうに冷たかったところが温かさで満ちてくる。

 その温かさにまた琉海は意識をまかせ、今度は心地よい眠りについた。




 目が覚めたとき、飛び込んできたのは大冴と未來の顔だった。

 でもそれも一瞬で琉海は また眠りに落ちていった。



 
 どれくらい琉海は眠っていたのだろう。

 次に目が覚めたとき、違う世界に来たかのように体が軽かった。

 ずっと琉海の体にまとわりついていた重く暗いものは跡形もなく消えていた。

 ベッドから起き上がる。

「目が覚めたか」

 ちょうど町医者が部屋に入って来た。

「やっぱ人間と違って驚異的な回復力やな」

 町医者は琉海の背中を確認する。

「あたしどれくらい寝てた?」

「丸々3日じゃ」

「大冴と未來は?」

 近くのホテルに待機させているという。

「あんなでかい図体の2人にずっとうろうろされとったら邪魔やからな、それにあの2人は可哀想やがおまえさんを助けることはできんから」

 琉海の記憶が蘇る。

「海男」

 そうだ、海男もいたはずだ。

「おじいさん、海男は?」

 町医者はため息をついた。

「まったく、危ないところやったわ。そんなんじゃ死ぬで、って言ってもわしの言うことなんか聞かへんのやから。自分は死んでもいいからおまえさんを助けてくれやと」

「海男が……?」

「そうや、あんたを助けたのはあの男や。人魚には人魚の血じゃないと輸血できへん。おまえさんの出血は本当にすごかったからな、あの男は文字どおり命がけでおまえさんに血をやったんや」