「未來、飛ばすから琉海をしっかり抱きとめておいてくれ」

 大冴はアクセルを踏み込んだ。

 あっという間にまだ騒然とする通りが遠くなっていく。

 少しして数台のパトカーと救急車とすれ違った。

「おい大冴どこに行くんだよ」

 高速に乗ったところで未來が驚いて大冴に訊ねる。

「大阪までぶっ飛ばす」

「大阪?」

 未來は高速道路の標識を見やる。

「なんで大阪なんだよ、引き返せ大冴」

 大冴は未來を無視して前を睨んでいる。

「おい、大冴聞いてんのかよ、すぐに高速降りろ!ここから1番近い病院に行け」

 未來を無視し続ける大冴に痺れを切らした未來は後部座席から身を乗り出そうとして、違和感に気づいた。

 琉海から流れ出た血は大冴の服もぐっしょりと濡らすほどだった。

 後部座席に固いプラスチックのような破片がいくつも落ちている。

 未來の手にもその破片はついていた。

「なんだこれ」

「未來」

 大冴は前方を凝視したまま言った。

「なにも聞くな」
 
 未來は手の中の赤い破片とバックミラーに映る大冴の顔を交互に見た。

 そっと血に染まった大冴の上着をずらす。

 未來はごくりと唾を呑み込んだ。

 琉海の背中にはびっしりと鱗が浮き上がっていた。

「大冴」

 大冴は返事をしなかった。

「大冴」

 もう1度未來は大冴を呼ぶ。

「未來、なにも」

「運転代われ」

「だめだ未來、琉海は大阪の病院じゃないと」

「だから運転代われ大冴、僕の方が早い」




 後部座席で大冴に抱きかかえられた琉海の意識は海の中にいるように揺らいでいた。

 薄く目を開けると大冴が琉海を見つめていて、琉海はこのまま死にたいと思った。

 このまま大冴の腕の中で見守れながら死ねたら幸せだ。

 でも今のままでは自分が死んだ時に大冴も一緒に死んでしまうかも知れない。

 陸の王子を殺してないのだから。