その通りだ。

 でも誰を選んでも誰かが泣くなら仕方ないことじゃないか。

 誰も傷つかない恋ができるのだったら自分だってしたい。

 でもそうじゃないのなら、自分の気持ちに従うしかないじゃないか。

 でも。

 もしかしたら陸の王子はまだあたしが出会ってない男たちの中にいて、もしかしたら陸の王子をあたしは大冴よりも好きになれるかもしれない。

 もしそうなったら……。

 いやだ。

 大冴以外の男なんてやだ。

 琉海はぎゅっと自分を抱きしめた。

 あの夜大冴が抱きしめてくれたように強く。

 大冴。

 あたしは大冴がこんなにも好き。




 その日2日間店を閉めていたせいか、いつになく琉海の店は大賑わいだった。

 昼ごろに大冴がふらりと現れた。

 きっちりとスーツに身を包んだ大冴は琉海が働いているのを見ながら近くのベンチで菓子パンを食べ始めた。

 ちょうど客足が途絶えたので琉海も自分のお弁当箱を持って大冴の横に座る。

「それ昼ごはん?」

 琉海は大冴の手に握られているメロンパンを見て尋ねた。

「文句あるかよ」

「別にないけど」

「おまえこそ昼からよくそんなもん食えるな」

 琉海の膝の上に広げられたお弁当箱の中には、分厚い肉が挟まったサンドイッチが詰まっている。

「これむうちゃんの店の肉だよ、ちょっと食べてみる?」

 いらないと言うだろうと思ったら大冴は素直に「うん」と答えた。

 琉海が新しいサンドイッチを渡そうとすると、大冴はひょいと琉海が手に持っている食べかけのサンドイッチを取り上げた。

「これでいい」

 大きめの欠片を大冴は口に放り込む。

「おいしい?」

「にくにくしい」

「肉だもん」

 琉海が大冴をじっと見ていると「なんだよ」大冴は不機嫌そうに言った。

「ううん、なんでもない」

 やっぱりない、大冴には。

 髪を短く刈り上げた大冴の首の後ろは何もしなくてもはっきりと見えた。

 アザなんてない小さなホクロ1つないきれいな首だった。