「首の後ろのアザ、それにあと2つの条件を兼ね備えた男や」

 2つの条件とは姉たちが言っていたものと同じだった。

 琉海が海で助けるというものと触れた時に火花が散るというもの。

 でもそうなると誰もいない。

 だから大阪までわざわざ来たのだ。

「助けるっちゅうのは直接的にあんたが海で助けるだけではないで。あんたの存在が王子を助ければそれでいいんや。それに火花が散るのも毎回やないで。最初に触れたときだけや。そんな毎回火花散っとたらどうやって愛し合うねん」

 それもそうだ。

「でもこの2つはあやふややろ。だからあんたはわしのところに決定打を聞きに来たんやろうが」

 そうだ、そうなのだ。

「首の後ろのアザや、これが決め手や」

 町医者は自分の首の後ろを指差して言った。

 琉海は町医者に礼を言って医院をあとにした。

 とにかく自分の周りにいる男たちの首の後ろを確認して回ろう。

 帰りの新幹線の中で琉海は自分が見知っている男たちのリストを作った。

 作っていて、あ、と気づく。

「あのお爺さんもそうだ」

 琉海はそうつぶやいて、くすりと笑った。

「まさかね」

 でもついでだから確認してくればよかったな。

 琉海の後ろに座っている親子の会話が聞こえてくる。

 小さな男の子とその母親のようだった。

「お母さん、今度来た時は通天閣に上ろうね」

「そうねごめんね、今回は時間がなくて」

 琉海はリストの中の『未來』の文字を指先でたどった。

 未來とはずいぶん会っていない。

 元気にしているだろうか。

 あんなにもまっすぐに自分のことを好きだと言ってくれた未來。

 でも自分はそれには応えられない。

 それを言ったら海男だって同じだ。

 海男は命をかけてあたしを追いかけて来てくれたのに。

 でもあたしが好きなのは大冴。

『恋は残酷だね、こっちで笑えば誰かが泣く』

 むうちゃんの寝言を思い出した。