次の日、琉海はまた大阪に向かった。

 町医者だったら陸の王子についてもっと何か知っているかもしれない。

「どうしたんや、まだ大阪におったんか」

 町医者は琉海を見てそう言うとボケ防止という漢方をぐびりと飲んだ。

 古い扇風機は昨日よりもくたびれたようにかくんかくんと首を振っている。

「お爺さん、陸の王子について聞きたいことがあるんだ」

 町医者の目の奥が光った。

「なんや」

「あるでしょ、陸の王子が持つ決定的な証拠みたいのが。おじいさんなら何か知ってるはず」

「それを聞いてどうすんのや」

 琉海は唇を噛みしめたまま黙る。

「王子を殺すんか?」

 町医者の鋭い視線から逃れるように琉海は目を逸らした。

 それでも琉海はすぐにまた目を合わせるとゆっくりと深くうなずいた。

「あるで、陸の王子を見分ける決定的なもんんが」

 琉海の鼻と町医者の鼻がくっつきそうなくらいの距離で町医者は声を潜めた。

「陸の王子には首の後ろに星の形をしたアザがある。それが陸の王子たる証や」

 町医者は自分の手の平に五角形の星を書いて琉海に見せた。

「いいか、アザはアザでも星の形やで」

 首の後ろにアザがある人はいるかもしれないがそれが星の形となるとそうはいまい。

 なるほど、では片っ端から男たちみんなの首の後ろを見て歩けばいいということか。

 でもこの陸にはいったいどれだけの男がいるというのか。

 琉海に残された時間内で全ての男たちの首の後ろを見て歩くことなんて到底できそうもない。

 それを言うと町医者は「あほか」と一喝した。

「陸の王子はあんたの近くにおる。変なことをせんでも出会うように運命がそうなっておる。それにもう出会っている可能性の方が高いで」

「うそ」

「うそ言うてどないすん」

 これには琉海は驚いた。

「だって、あたしが知ってる男の人って言っても」

 大冴に未來に海男とむうちゃん。

 あ、むうちゃんは女だった。

 だって海男は人魚だし大冴も未來も糸の色が違う。

 他にはそうだ、むうちゃんの店のバイトの男の子。

 それにこの前あたしを連行した2人の警察官。

 あの管理人の男もそうだ。

 うわ、あの人が陸の王子だったら最悪。

 あ、でも逆に殺しやすいかも。

 警察官と言ったら海の近くのあのお巡りさんもそうだ、そう考えると結構いる。