大冴の部屋のインターホンを鳴らすがやはり返答はなかった。

 仕方なく帰ろうとすると管理人室からのぞく視線と目があった。

「あの」

 琉海は中にいるねずみ色の服を着た男に声をかける。

 男は慌てて琉海に背を向けた。

「あのこれ大冴に渡してほしいんだけど」

 男はわざとらしくたったいま琉海の存在に気づいたように振り返った。

「あ、はいはい」

 短く返事をすると琉海からおはぎの入った箱を受け取る。

 こわばった横顔がそれ以上琉海と会話をしたくないと言っている。

「あのそれ大冴に」

「はいはい、分かってますよ」

 ちゃんと大冴に渡してくれるのかどうか不安だったが管理人の男は取りつくしまがなく、琉海は仕方なく管理人室をあとにした。

 1つ目の角を曲がったところで琉海は2人の警官に呼び止められた。

「ちょっと一緒に来てもらいたいんだけどね」

 有無を言わせない物言いだった。




 琉海は窓のない小部屋に1人座っていた。

 目の前のテーブルにはおはぎの入った箱が置かれている。

 部屋のドアは開けっ放しにされていて、ときどき警察官が部屋の前を通り過ぎて行った。

 琉海は箱を開けておはぎを1つ手に取る。

「失礼しちゃうよね、あたしが大冴のストーカーだなんてさ」

 琉海は大口を開けておはぎにかぶりつく。

 でもそういうのがストーカーなのだとさっきの警察官は言った。

 自分に会いたがらない相手をつけたり、家に行って待ちぶせしたりすること自体が犯罪なのだそうだ。

 そしてやっている方は自分の行動は愛の行動だと思っていてまさか犯罪なのだとは全く気づかないのも特徴だという。

『彼は君に会いたくないんだろう?』

 警察官は琉海を哀れんだような目をして見た。

 大冴はあたしに会いたくないんだろうか?

 だからいつも家にいないんだろうか?

 それとももしかすると居留守を使われているんだろか?

 そんなにあたしが大冴を好きなことが迷惑なんだろうか?