「どうもせん。どうにもならんやろ。わしは水の中では生きられん。あいつは陸では生きられん。やけど人魚と人間の恋はわしとあれだけやなかったはずや」

 ずっとずっと昔から人魚と人間は恋に落ちていた。

 人魚の男と人間の女の時もあったという。

 陸にいる愛しい人に恋い焦がれて、恋い焦がれて、人魚は人間になる術を編み出した。

 1年という自分の命と引き換えに。

 永遠に愛する人と隔てられるぐらいなら、1年でも愛し愛され死んでしまった方が幸せだと。

 伝説の海の姫が誕生している時代の人魚たちは、その強い想いを姫に託しもしたが、自分たちが選ばれた姫と王子だったらと、どんなに悔しい想いをしただろうか。

「じゃあ、今もあたしと海男の他にも人間になってる人魚がいるってこと?」

 もしいるならば、会ってみたい。

「おらん。伝説の姫のあんたがおるやろ。わしは今は海のことはよく知らんが、人間になりたい人魚がおったとしても、あんたが伝説を叶えるのを待っとるやろ」

 それはそうだ。

 もし琉海が成功すれば世界は1つになるのだ。

 やっぱり琉海は責任重大なのだ。

 今の琉海は好きになってはいけない人間の男を好きになってしまった切ない気持ちが痛いほど分かる。

 会いたい、会いたい、会いたい、あなたに会いたい。

 人魚たちの声が聞こえてくるようだった。

 やっぱり、あたしは陸の王子をちゃんと探さないといけない。

 みんなの想いを叶えてあげるために、あたしは……。

 大冴の顔が浮かんだ。

 あたしは大冴には会ってはいけないんだ。

「どうしたんや、そんな泣きそうな顔しおって」

「お爺さん、あたしね」

 琉海は医者に未だに陸の王子が誰だか検討もつかないこと、そして王子でない人間の男を好きになってしまったことを話した。

「そうか、そうか」

 医者は琉海の頭を撫でた。