チン、と到着を告げる安っぽいエレベーターの音。
のんびり扉が開けば、
「お、おはよーりなまる」
「おはよ」
顔だけこちらを向けたやまちゃん。
ひょろりとした長身を曲げて、きっと低いであろうテーブルの上で何かを書いている。
「ヨッシーに染め粉渡したの?」
「ん?あー、うん、渡した」
「それであんな大惨事になったの?」
「別に染めろとは言ってないよ」
「……」
「僕は渡しただけ」
はは、と肩を揺らすと彼の茶髪も揺れる。
オレンジの染め粉なんてやまちゃんは絶対使わないくせに。ヨッシーに渡したのは絶対お遊びだ。
くすくすと笑い続けるやまちゃんは季楽里の店長。でも未成年。なんと19歳だ。笑ってしまう。
ここで働く従業員、全員が歳下の下で働いている。しかし誰も文句は言わない。
仕事が出来れば歳下だろうが何だろうが関係ないのだ。
やまちゃんはヨッシーの持っている人の懐に入る上手さは勿論、店内を回す力やお客さんとのお喋り、キープボトルの銘柄まで完璧だ。
あ、あと顔が整っているから男性のみならず女性からも好かれるという、なんとまぁ人生イージーモードの男なのか。
「今日りなまるは5番」
5、と手書きで書かれた鍵を受け取って、やまちゃんの横をすり抜けようとする、と。
