でも別に私は不自由じゃなかった。
幸せじゃない、
そんなことはなかった。
たしかに音が聞こえないから不便なことはあった。
でもそれを理由に自分のことを不幸だなんて思ったことはない。
お父さんとお母さんを恨んだりもしない。
私はこの世界、案外嫌いじゃない。
聞こえないからこそ見えるものがある。
大切にしたいものがある。
他の人には伝わらないこの世界を
数少ない人だけが生きることができる。
それってとても貴重じゃない?
逆に私には音のある世界が想像できない。
だって生まれた時からこの世界なんだもの。
そもそも音が何かも分からない。
だからもうこの世界で楽しく生きていくことを考える。
もし音が聞こえたら___?
そんな夢なんて抱かないほうがいい。
期待しないほうがいい。
知らないほうが良かったことだって
きっと世の中にはたくさんある。