冷たい雨粒を受けながら走り、廃墟の表側にある、朽ち果てた庇の下に入る。

大きな雷鳴と雨に濡れた寒さで、私は小さく震えながら小屋の壁にくっつき、ぎゅっと両手を握っていた。


ふと何か、気配を感じて横をみると、同い年位の男子がいる。

雷雨の音で全く気づかなかった…そう思いつつ、彼の方を見上げる。



それは、懐かしい誰かに、似ている。


津久見海斗…


すると隣の彼は、はっとして怯えるような表情で私の方を見た。





これは似ているのではない。それは津久見海斗そのものだ。私は一瞬そう思った。


だが、彼はすでにこの世にいない。そっくりさんに違いない、と自分の頭の中を整理する間もなく、彼が口を開く。




「神崎さん、…神崎澪、さん？」

『えっ、何で、私の名前を知って…』









「えっと…津久見…海斗、だけど。」

『え？いや、津久見くん、なわけ…ない……』


否定しようとしたが、顔も、体格も、声も、津久見海斗そのものとしか言いようがなかった。




あり得ない。そんなこと、絶対にあり得ない。
もしかして、教授は悪い冗談を言っていたのだろうか…
今まで私は何を聞いて、何に悲しんでいたのだろうか…全てが真っ白になり、わからなくなる。




私は一瞬、聴覚も感覚も膜が張ったように鈍くなった。
ただ、彼が私の視界にあることを自覚することで精一杯なのだ。