「ただ、    」



その言葉を聞いた瞬間、あぁ、と心の中で溜息を落とした。

壱哉の身にまとう儚げで繊細で独特なオーラを、おそらくこれまで彼の傍にいた人たちも感じ取り不安に思ったのだろう。

そして、そのたび、彼は先程のような言葉を伝えたのだろう。


『どこにも行かないよ』


安心させるような優しい声で、大丈夫だよって、手の甲を撫ぜてくれる。

それなのに、不安が増すのは、なぜだろう。


「頭使ったら、甘いものが食べたくなってきたな」

「壱哉って甘党なの?」

「いや、そういうわけじゃないけど、疲れてる時とか無性に食べたくならない?」

「私はいつも食べたいよ」


どれにする? って広げたメニューが逆さまで。

私が見やすいようにと横向きにするのを止めて、向かい側、壱哉の隣に席移動する。一連の流れで腕を手を絡ませたりして。

肩に頭を乗せた私に、壱哉は「甘えん坊だなぁ」とクスリ笑った。

自分でもびっくりなんだけど、私、割とこういうの躊躇することなくできるみたい。


「試験が終わったら、ふたりでどっか行こうか」

「いいの?」

「1日中は無理かもしれないけど、バイトの都合をつけてみる」

「ほんと? 約束だよ」