「普通の人?」
「うん、普通の会社を経営してる……」
「社長じゃん!」
吹き出すように笑う。
そういうのは普通と言わないと壱哉は訂正してくるけど、社長さんにも色々あって中には普通の社長さんもいるんだよ。なんて苦しい返しをしてみたり。
だって、事実、お父さんは社長としては普通だもん。名前だけ。
普段は「先生」だから。
「なんか違いを感じちゃうな」
「え?」
「身分違い的な?」
「何言ってるの、そんなの全然……。本当にうちは小さな小さな会社で、私はお嬢様でも何でもないんだから、そんなこと言わないでよ」
嘘。小さな嘘。
だけど、それは、壱哉を傷つけないための嘘だと自分に言い聞かせ、彼の手を握る。顔が見えない分、不安だ。
今、どんな表情をしている? 何を思っている?
そっと握り返してくる指の力が弱々しく、儚げで。
空くんが言っていた、消えてしまいそうな、というのが分かる気がした。
「美波? どうして泣きそうな顔になってるの?」
「だって」
「大丈夫、俺はどこにも行かないよ」



