ずるいんだけど、と言うと。
頭をペンで叩いて、ここの出来が違うんだよって嫌味な返し。
でも悔しいかな、確かに出来が違うみたい。教え方もうまい。独自の解き方なんだろうけど、無駄がなくて簡素的で、答えの導き方もユニークだ。
「この問題は、さっきの公式を応用して……答えは12-3√6」
「なるほど、じゃぁ次は?」
「y=2X-20」
シャーペンを持つが動くたび、答えが飛び出てくる。
長くて綺麗な指。
「すごい! 大貴くんより分かりやすい」
「大貴くんって、こないだ会ったお姉ちゃんの婚約者?」
「うん、そう。家庭教師なんだ」
顔をあげた壱哉が、へぇ、と短く答えた。
それから机の端へと押しやったマグカップに手を伸ばし、コーヒーを啜る。もう十分冷めているのに、ふぅと息を掛けてから飲む仕草が可愛い。
「前から思ってたけど、美波って相当なお嬢さんだよな。お父さんって何やってる人?」
「え、っと、普通の人だよ」
思わず、動揺してしまった。
政治家なのは言わない方がいいんだよね?



