向かいの席に座る空くんの表情は分からない。
でも、きっとニヤニヤしてるに違いない!
空くんは人をからかったり茶化したりするタイプとはない(前にバンドメンバーで集まった時、そうだったし)と思っていただけに、今のカマかけには衝撃をくらって。
顔が爆発するのでは? ってくらい熱くなる。
付き合ってたと知ってて壱哉の話をしたんだと思うと、重ねて恥ずかしくなってきた。
「ふふ、ごめんね。虐めちゃった」
「悪趣味ですよ」
「気に入った子限定だよ。壱哉も美波ちゃんもどっちも好きだから、2人が上手くいく為に1つ忠告したいんだけど、いい?」
「……何ですか?」
「政治家の娘であることは黙っておいた方がいい」
え? どうして?
理由を聞こうとしたら、空くんのスマホが鳴った。
話し込んでいるうちに時間が経っていたらしく、電話口の向こうから可愛い女の子の声が漏れて聞こえてくる。サリーちゃんかな?
空くんは「すぐ行く」と答え、席を立つ。
「ごめん、もう行かなきゃ」
「あの、空くん。さっきのは、どういう?」
父が地方議員であることを、わざわざ自分から話すことはないと思う。
だけど、聞かれた普通に答えると思うし、何かの折に知られることは十分あるわけで……。
「嫌いなんだよ」
「え?」
「壱哉は政治家がこの世で1番嫌いなんだ」



