「不安って?」
「うーん、なんていうのかな、表現するのが難しいんだけど。張り詰めてる糸が突然切れて、不意に消えてしまいそうな気がするんだよね」
「まさか、そんな……」
壱哉がいなくなってしまう?
言葉を失っていると、それまで窓の外の方へと顔を向けていた空くんが、口に咥えていたカップを慌てた様子でテーブルに置き、大きく手を振った。
「いやいや、あくまでそんな気がするってだけだから!」
「あ、はい、分かってます」
「ほんとに? 真に受けちゃった顔してるけど」
「冗談が通じないタイプってよく言われますけど、実は通じてるので大丈夫です」
「そうなの」
ふふっと笑う声がした。
空くんは優しい笑い方をする人だな、顔もきっと優しい顔なんだろう。言葉の端々からメンバーや壱哉のことを気遣い、心配しているのが伝わる。
お兄ちゃんのような存在が、壱哉の傍にあって良かったな。
そう思っていると、
「美波ちゃんって政治家の娘だったりする?」
「え」
不意を突かれて、よほど間抜けな顔をしていたのだろう。
いやいや、と空くんが苦笑する声が聞こえた。



