「ま、みんな色々あるよな」
「そうですね」
「みんなと言えば、壱哉のところも複雑だしね」
「え、あ、はい」
不意に壱哉の名前が出てきて、リアクションに少し困った。
空くんって知ってるんだっけ? 私が、その、彼と付き合ってるってこと。
「本当はさ、壱哉も音楽がやりたいんだよ」
「それは、バンドを組んでってことですか?」
「うーん、その辺は分からないけど、今みたいに助っ人じゃなくて、本格的に自分の曲を作って演奏してっていうの。あいつ才能あるしさ、俺らなんかよりずっとメジャー狙えると思うんだけど……」
そうなんだ。
壱哉の歌声を初めて聴いた時の衝撃を思い出す。
ただ、音楽が好きってだけじゃないんだね。
「でも、それならどうして本格的にやらないのかな」
「そりゃまぁ、小さい弟がいるし。今は夢より現実って感じなんだろうね」
あぁ、だよね。
でもいつか、恭哉くんがもう少し大きくなったら、夢を追えるようになるかな。
もし、そうなら全力で応援したいよ。
壱哉の歌をもっと、もっと多くの人に……。
そんな未来を想像して、胸が熱くなる。
フラペチーノが入ったカップで、火照った顔を冷やしていると。
「あいつ、見てると時々不安になる」
ふいに、空くんが呟いた。



