「今からライブですか?」
「いやいや、今日は練習。この先にあるスタジオでね」
「へぇ、練習ってスタジオでするんですね」
「どこでしてると思ってたの?」
「……原っぱとか」
イメージだよ、イメージ!
青春映画なんかでよく目にする、川のほとりでトランペットを吹くやつ。ああいうのの、バンドバージョンを想像しただけなのに。
空くんはお腹を抱えるほど笑い、涙を拭くような仕草をする。
「美波ちゃんって思った以上に面白いね」
「褒められてますか?」
「あはは、その顔! いいね。楽しませてもらったお礼に、お兄さんがジュースおごってあげるよ」
「いいですよ、そんな」
行こ行こ、とコーヒーショップの方を指さす空くんに、慌てて手を振り遠慮する。
すると、彼は後頭部に手を当てながら「実は、」と少し困ったように切り出した。
「スタジオの予約時間までだいぶあるんだ、時間潰しに付き合ってくれると助かる」
「予約時間は何時なんですか?」
「19時」
「あと、2時間もあるじゃないですか」
「でしょー、さすがに2時間、ひとりで潰すのはきついでしょ? いやぁ、久々のスタジオだから気合入っちゃって、早く家を出過ぎたよ」



