「あれ! 偶然だね」


学校帰り、駅前の広場を歩いていると、近くでそんな声が聞こえた。

方向からいって、斜め前。

ニット帽を被った男の人が軽く手をあげながら、こちらに近づいてくる。


「どうしたの、今帰り?」


えーと、私に言っているのかな?

ひとりで行動している時に声を掛けられても、それが私に向けてなのか、それとも後ろや横にいる人なのか、分からなくて困惑してしまう。

普段ならこういう時のために、イヤホンを耳に入れていて、音楽を聴いていたから気が付かなかったっというていでやり過ごすのだけど。

今日に限ってしてないし。

今更するのもなぁーと考えていると、


「あ、そっか。帽子被ってるから分かんないよな」


目の前で足を止めたその人は、ニット帽を外した。

鮮やかなブルーの髪が現れる。

見覚えがあるこの色は……、


「俺さー、顔が薄いみたいで1,2回会ったくらいの人だと気付かれないんだよね」

「空くん?」

「そうそう、髪の毛で分かった?」

「うん、綺麗な色だもん」


ありがと、と笑う声に合わせるかのようにブルーの髪がふわり揺れる。

背中にはギターケース。

そうだ、先にこれに気付けば、すぐ分かったかも。