しまった、と思うには遅く。
「おい、この傷はなんだよ」
荒げた声を出した大貴くんは、ハンドルをきって車を停めた。
それから全身をチェックするかのようにあちこち触りだした彼は、最後に鎖骨に貼った絆創膏を見つけハッと息を飲む。
「どうしたんだ、これ!」
「大したことないよ、ちょっとかすり傷」
「どうやったら、こんなところを怪我するんだよ……まさか、さっきの男に?」
「違うってば!」
手を払いのけようとした瞬間、ズキッと痛みが走った。
「あ…」
ごめんと謝る大貴くんの申し訳なさそうな声に、居たたまれない気持ちになった。
自分でいうのもなんだけど、花よ蝶よと大事に育てられていた、言わば箱入り娘。怪我のないように、悪い虫が付かないようにと周囲に守られてきたんだ。
心配するな、と言う方が無茶な話。
でもね、大貴くん。
私、初めてなんだ。
誰にも渡したくない、なんて思ったの、初めてだったんだ。
「心配かけてごめんなさい」
「いや、俺もちょっと頭ごなしだった」
「今度、大貴くんもライブハウスに来て。壱哉が演奏するかどうか分からないけど、聞けばきっと感動するから」
「……そっか、分かった」