壱哉と挨拶を交わしたあと、大貴くんは、
『こんな遅くまで何をしていたのか』
『もっと早く家に帰してやってなかったのか』
『付き合うのは構わないが、もっと健全な付き合い方をしてくれ』
といった内容の話を、くどくどしていた。
その間、壱哉はひたすら恐縮していて、何度もすみませんと謝ってくれたのに、まだ怒り足りないというのか。
「大貴くんが心配するような人じゃないよ」
「実際、心配されるようなことをしているのは誰だ」
「いまどき、門限が9時なんて早すぎるんだよ」
「紗英が高校生の頃は、8時だったけどな」
こんな時に、お姉ちゃんの話をしないでほしい。
ふいっと顔を背け、窓の外に視線を移すと、はぁーと重ための溜息。もうすっかり本物の兄のようだね。実際、そんな風に紹介したしね。遠からず、そうなるしね。
でも、なんだかなぁ。
生まれて初めて、大貴くんのことを鬱陶しく感じる。
「あいつは、美波の病気のことを知っているんだよな」
「知ってるよ」
「それならいいけど、美波をちゃんと支えられるのか、しんぱ、」
「大貴くん!」
もういい加減にしてよ。
「病気のことなんて関係ないし、支えてもらうために付き合ってるわけでもないし、心配なんてしてもらわなくても、私は私でちゃんと恋愛してるよ」
――と、力説してるのに、大貴くんはそんなの聞いてないって感じで、私の手を取った。