走行中の車は、色んな音がする。

それはもう、前後左右上下から。普段気が付かないだけで、例えば小石を踏んだ音とか、フロントガラスに虫が当たる音とか。

カーステレオも何もつけていないとこんなにも響くもんなんだなぁーと。

つまり、無言の車内が息苦しいってことで。

あの、と声を掛けたけど、見事、無視された。




「……美波に彼氏ができたって、博貴から聞いていたけど」


ようやく、運転席の大貴くんが口を開いてくれたのは、家のすぐ近くの信号に掴まった頃だった。

今日はゼミの発表会でもあったのか、それとも家の仕事の手伝いなのか、珍しくスーツ姿で、いつもよりさらに大人っぽく見える。

ハンドルを握る手に、ブライトリングの時計が見えた。

就職が内定したお祝いに、お姉ちゃんがプレゼントしたものだ。


「どこで知り合ったんだ?」

「同級生だよ」

「学校にはあまり来ない奴だと聞いたぞ。どうやって親しくなった?」


博貴めー、余計なことを言ったな。


「……ライブハウスだよ」

「ライブ?」


驚いたように聞き返される。

まさか、私が、そんなところに出入りしているなんて信じられないっていった声。

でもさ、別に疚しいことをしている場所じゃないし。

ちょっと過保護すぎると思うんだけど。