「本当にここでいいの? 今日は家まで行くよ」

「大丈夫、ここで」

「でも心配だから、やっぱり家まで送る」

「いやいや、本当にここでいいの」


そんなやり取りを、もう十数分やっている。

夜はバイクの音が響くから、住宅街に入る少し手前のコンビニで、傍目から見たら私たちはただイチャついているだけのカップルだろう。

駅前とかでたまに見かける、帰るの帰らないのをやってるアレ。

うっざいなぁー邪魔なんだよって、いつも思ってたけど、まさか自分がそれをやる日が来るとは……。


「実はうちね、親が厳しいんだ」

「だったら、尚更ちゃんと挨拶した方が、」

「いいんだってば、ささっと家に入るから」


壱哉が”挨拶を”なんて言い出すとは思わず、焦る。

嬉しい反面、お父さんに知られたら根堀り葉掘り調べられて面倒なことになる。反対されたら、自由を奪われるかもしれない。それだけは避けたい。

もうしばらく、誰にも邪魔されたくない。

どうしたものかと考えていると、


「美波?」


コンビニの袋を下げ、停めてあった車に乗り込もうとしていた人に声を掛けられた。

この声は大貴くんだ。


「どうした? またこんな遅くに」

「や、今帰ろとしてたところで」

「そっちは……彼氏?」

「あ、うん。壱哉っていうの。この人は大貴くんっていって、お兄ちゃんみたいな人だよ。ちょうど良かった、大貴くん家まで乗せてって」