「……本当に何もされなかったんだよね?」
「されてないよ、全力で死守したもん」
「ガラスの破片を持って立ってる美波を見た時は、心臓止まるかと思った」
「私だって、壱哉があんなに強いとは知らなかった」
小さい頃、壱哉はボクシングを習っていたらしい。
といってもすぐに辞めたから攻撃力があるわけではなく、パンチをよける速さと不意を突く動きが上手いだけだと彼は言う。
その割には、大男たちを軽々担いでいたけど。
まぁ、あまり追及していでおこう。
「今度、私にも護身術教えてね」
「それ以上、強くならなくていいよ」
「どういう意味?」
「俺がいつも守ってあげるって意味だよ」
壱哉はときどき、さらりとドキリとすることを言う。
多分それは彼にとっては普通のことで、会話のキャッチボールとして極々自然な内容なのかもしれないけど、受け取ったこちらは動揺のあまり落っことしそうになるんだ。
爆発しそうなほど頬が熱い。
確かめなくても分かる、真っ赤だ。
そっとしておいてくれたらいいのに、わざわざそれを指摘した壱哉は、クスクス笑いながら、唇に甘い余韻を残した。



