相貌失認症になってしまってから、困ったことはいくつもあったけど。
特定の誰かの顔を見たいと思うことは、あまりなかった。
元々それほど人間が好きってわけじゃないし、見れないなら見れないで、嫌な部分を知らなくて済むから。だけど――。
こんなにも、誰かの顔を見たいと思ったのは、壱哉が初めてだよ。
「ねえ、」
「うん?」
「どうして、あの場所が分かったの?」
「あぁ、GPSだよ。スマホのね」
「いつのまに、そんな、」
登録をしていたの? と聞こうとしたけど。
まぁ、いいかと頷いて続きを促す。
「バイトが早く終わって恭哉のところに行ったらさ、ちょうど美波が帰ったばかりだと聞いて後を追ったんだよ。でも、見つからないし、電話も出ないし」
「そうなの? 気が付かなかった」
「ちょっとした遊び心で、居場所を検索して脅かせようと思ったんだ。でも、現在地があのカラオケボックスになってて、なんか変だなって」
「1人でカラオケ行かないもんね」
「それもあるけど、あそこは悪い噂があるところだから」
「悪い噂?」
首を傾げたけど、美波は知らなくていいよ、と濁される。
でも大方予測は付く。
店に入る前から男に担がれて大声あげたのに、誰も助けに来てくれなかったし、店員さんも見当たらなかった。
つまり、そういうところ。



