「沁みると思うけど、動くなよ」

「……うん」


痛ぁい。

覚悟はしてたけど、想像以上の痛さに思わず手を引っ込めた。

右の手の平と、左の人差し指、中指、それから鎖骨のところを、ちょこっとガラスで切ったらしい。血がにじむ傷口に、壱哉がふぅーと息を掛けてくれる。


「病院、本当に行かなくていいのか」

「平気、かすり傷だよ。壱哉は?」

「俺も大したことないよ」


カラオケボックスを後にした私たちは、壱哉のバイクで近くのドラッグストアまで走り、消毒液と絆創膏を買ってから、前に2人で行った海沿いの防波堤に向かった。

コンクリートの上に並んで座り、お互いの傷をチェックする。


「痕、残らないといいけど……ごめんな」

「どうして壱哉が謝るの」

「だって、俺のせいじゃん」

「じゃぁ責任とって、結婚しなよ」

「また男前なプロポーズだな」


やっと聞けた軽口に、ふふっと笑うと不意打ちのキスがきた。

夜風に吹かれ凍えそうな頬に、肩に、傷ついた鎖骨に、熱を帯び始める指に、ぼんやりしてくるおでこに。

キスの雨が優しく降る。


しばらくそうしていた壱哉は、私をギュッと抱きしめて。


「ごめん」


と、もう1度呟いた。

震える声で、あなたは今どんな顔をしているの?