「ただ、    」





小湊 壱哉 17歳。

ストロベリー・ムーンというライブハウスで働いている、クラスメイト。


「次の問題は、テキストにある公式を応用して……」


長身細身、黒髪やや長め、ハスキーな声、右耳にリング型のピアス、黒っぽい服装。

シトラスの香り、唇に、キス、口止め料。


「美波? 聞いてる?」


遊び人だよね、いきなりあんなこと。

きっと私をからかって楽しんだんだ、嫌な奴。

なのに、どうして思い出すたび胸がドキドキするの。


「おーい、美波」

「えっ」

「どうした、ぼんやりして」


しまった、また考え込んでいた。

机の上には空欄のまま問題さえも読まれていないテキストが置かれており、赤ペンを持った大貴(だいき)くんが、頬杖を付いてこちらを見ている(と思う)。

この様子だと、随分長い間ぼんやりしていたのだろう。

慌てて問題を解こうとしたけど、問いの意味すら頭に入ってこない。


「休憩しようか」

「ごめん」

「別に俺に謝ることないけど、悩み事でもあるのか?」

「ううん、そうじゃないけど」

「あんま、無理すんな」


頭をぐりぐりされる。

優しいなぁ。