「ただ、    」



「バンド活動なんてしてないよ、俺、ここのライブハウスで働いてるんだ」

「え?」

「あと、他にも色んなバイトをね。だから、学校に行く暇なくて」

「そうなんだ……。あれ? でも、」


うちの学校って、バイト禁止だったはず――。

そう思った瞬間、壱哉の体がさらに近づき、後ろの壁に背中がぴったりくっついた。

ひんやりした感触。

顎に指を掛けられて、まるで猫のように自然と顔が上を向く。


「やっぱり、そっち系か」


壱哉がどんな表情をしているかは分からなくて、言っている意味も分からなくて、ただ、されるがまま突っ立っていると。

唇に柔らかいものが触れた。


「――――っ!?」


今のって、


「口止め料」

「くち、どめ……」


言い終わる前に、もう1度。

顎に添える程度だった指は、しっかりと私の耳から頬にかけて抑えこんでいて、燃えるほどに熱い。熱い。熱い。

息が止まるかと思うほど、続いたキスは。

ぱちん、と響く平手打ちの音で、やっと終わった。


「痛ぇ、叩くことないだろ」

「……最っ低」


その場から逃げるように走り出した私は、数分も経たないうちに男たちに見つかり車に乗せられた。

頬が、唇が、どうしようもないくらい熱い。

窓ガラスには、ぼんやりとした自分の顔が映り、それを優しく見守るような月が輝いていた。