「そんな軽蔑した目で見るなよ、分かってるから。この前、美波に、都合の良い時に遊ぶ相手かと言われて自覚したよ。最低だよな、その通り過ぎて何も言い返せなかった」
「壱哉……」
彼は時々、こういう言葉を切なめのトーンで言うから、そんなことないよって返してあげたくなる。ずるい人。
可哀想なのは、どう考えてもゆっこちゃんで。
彼を取り巻く大変な境遇も分かるけど、藁にも縋りたい気持ちで生きてきたのだって、想像できるけど……。
なんて、私の言えたことじゃないね。
産まれてこの方、苦労したことのない私に、何が分かるっていうのだろう。
私はもっと、彼のことが知りたい。
「もう1つ、はっきりさせて欲しいことがある」
「ん?」
「私のこと、どう思ってる?」
壱哉、私ね、今まで恋をしたことがなかったの。
憧れている大好きな人はいたけど、胸を揺さぶられるような気持になったのは、壱哉が初めてなんだ。
だから、匂わせるとか、察してほしいとか、そういうのダメだよ。
恋愛の駆け引きなんて、皆目ダメだよ。
ちゃんと聞かせてほしい。
「私は、壱哉のことが好きだよ」
言い終わる前に、抱きしめられた。
ぎゅっと苦しいくらいに腕の中に閉じ込められて、頬を寄せた彼の胸から心臓の音がどきどき聞こえる。それに負けないくらい私の胸も煩い。
窒息しそうな時が、このまま永遠に続くのではないかと焦り始めたその瞬間。
甘い吐息が耳元に落ちた。
「俺も美波が好き」



