やっぱりと言うべきか、驚くべきか。
過去形だったことに喜ぶべきか、私はきっと複雑な顔をしていたのだろう。
膝を突き合わせる形で、私の正面に座った壱哉は、ゆっくりとした口調で話を続けた。
「この近くに恭哉が小さい時からお世話になっている診療所があるんだけど、ゆっこはそこの娘なんだ。まだ俺らの母さんが生きていた頃から家族ぐるみで付き合いがあって」
「幼馴染ってこと?」
「そんなものかな、しょっちゅう一緒にいたし、まぁ楽だったってのもあって、気が付いたら、そういう仲になってて。でも、ずるずるした関係って良くないよなって思って、別れたんだよ」
「それっていつの話? 壱哉から、そう言ったの?」
「高1の終わりごろかな、うん、俺から言った」
じゃぁ、ゆっこちゃんの方は納得していないかもね。
というのは、言わずにおく。
別れたあとも、彼女を家に呼んだり、一緒に出掛けたりするのは、なぜかと聞くと、壱哉は少し言いにくそうに後頭部を掻いた。
「さっきも言ったけど、ゆっこは医者の娘だから。いざって言う時、頼りになるんだ」
「いざって時?」
「恭哉だよ、あいつが熱出したり寝こんだりしたとき、預けるのに、ゆっこが最適なんだ。だから、ずるいのは分かってるけど、好意に甘えてさせてもらってた」
あー、そういうことか。
ゆっこちゃんの気持ちには応えられないけど、完全に縁を切るのは惜しい存在だから、適度に相手をしてあげながら繋ぎとめている。
ってことだよね。
やっぱり、最低じゃん!



