私たちのお母さんは、私が小学生の頃に事故で亡くなっている。
だから、うちにいる”お母さん”は、後妻さん。お母さんの死後、お父さんの仕事関係で知り合った人だと聞いたけど、本当はどうかな?
気が強くて、プライドが高くて。
私は少しも好きになれない。
昔、お父さんとお母さんは大恋愛をしたんだと聞かされたことがある。
半ば駆け落ちをする勢いで結婚したと言っていたけど、その相手が亡くなって、すぐに別の人と再婚するなんて私には理解できない。
その辺りからかな、お父さんのことも苦手になって、顔も分からなくなっちゃった。
って、別に悲劇のヒロインになるつもりはないけど。
これまでの私の人生は、「無」だ。
空っぽで色もなくて、感情を揺さぶられることもなく、多分この先も同じような毎日を過ごしていくんだと思っていた。
思っていたんだ……。
「昨日の、アレなんだよ」
「なにって、なにが?」
「あぁ? 人がせっかく送ってやるって言ってるのに、逃げてったアレだよ」
学校の休み時間。
珍しく壱哉が学校に来たなと思ったら、いきなり突っかかってこられた。
机をバンッて叩かれて、感じ悪い。
「だって、先約があったんでしょ」
「だから、それはあいつが勝手に、」
「勝手に約束した? そんな風には見えなかったけど? ていうか、彼女がいるなら先に言ってよ。馬鹿みたいじゃない、私」
「違う、あれは彼女なんかじゃない」
「じゃぁ、何? 都合の良い時に遊ぶ相手? 最低だね」



