「あ、次、美波ちゃんだよ!」
「よし、きた」
「何? 何? まさかのアニソン!」
♪~♪~♪~♪
「微笑み忘れた顔など、見たくはないさぁ~愛を取り戻せぇえぇ~~♪」
あぁー、すっきりした。
黒いソファの上に裸足で立っていた私は、自分に熱唱に酔いしれながらマイクを口元からゆっくり離し、テーブルの上にあるリアルゴールドを一気に飲み干した。
隣に座っていたサリーちゃんが「荒れてんねぇ…」と、見えないけど、苦笑いしているのが分かる。だって、だってさぁ。
「あんなタラシだとは思わなかった」
「壱哉のこと? さっきも言ったけど。あれは、ゆっこが一方的に付きまとっているだけだから気にしなくていいよ」
「でも、ふつうその気が無いなら断るよね?」
「まぁ、そうだけど。何ていうかな、壱哉って懐が広いっていうかさ、困ってる子を放っておけない性格っていうか、あ、分かった。ボランティア精神が豊富なんだよ」
美波ちゃんだって、ライブハウスの前で困ってるところを助けて貰ったでしょ、って。確かにそうだけど……。
だったら、私にしてくれることも、単なるボランティアってこと?
それはそれで、むかつく!
ゆっこちゃんが壱哉に好意を向けているのは、初対面の私が見ても分かるくらい明らかで、彼女と親しくするなら、私に優しくなんてしなくていい。
ましてや、キスなんて……。



