「すぐ着替えてくるから」
「うん」
こういうのって、慣れてないからどういう顔をすればいいか分からない。
でも、正直いって嬉しくて。
ドキドキしているのが壱哉にバレないよう平然を装って「外で待ってる」と答え、ファミレスの出入り口のドアに手を掛けたとき。
「壱哉ぁ、私との約束はぁ?」
背後から甘ったるい声がして、足を止めた。
振り向くと、先ほどのゆっこちゃんが壱哉の腕に自分の手を絡ませている。
「今日は約束してないだろ」
「したもん、パソコン教えてくれるってぇ」
「あー……」
「ゆっこ今夜しか時間ないもぉん、明日試験だしぃ」
「分かった、じゃぁ先に家行って待ってて」
そう言うと、壱哉はズボンのポケットから家の鍵らしきものを取り出して、ゆっこちゃんに手渡した。
それを彼女が嬉しそうに受け取る。
なんなの、なんなの、これってさー。
完全に付き合ってるカップルじゃない? 合鍵を持っていないだけホッとするべき?
馬鹿にしてるの?
「……行く」
「え?」
「やっぱり、私カラオケ行くから。その子と一緒に家に帰れば?」
「おい、美波」
頭にカッアと血が上った私は、壱哉の呼びかけも無視して店を出て、サリーちゃんたちの後を追った。きっとまだ近くにいるはず。
それにしても、他の女の子と約束があるのに、別の女の子を誘ったりするかな。
あわよくば、両方とも手に入れようって感じ? ちょっと優しくすれば女の子なんてイチコロだって思ってるの?
壱哉って、やっぱり遊び人なの?
あぁ、むかつく。
なんなの、あの舌足らずの女!



