――――と。
「美波、こっちきて」
グランドピアノの椅子に腰を掛けた壱哉が、私に手招きをした。それから少し空いている右側をパンパンと手で叩き、そこに座るよう合図する。
ちょこんと座ると、もっとこっち、と腰を抱き寄せられた。
「な、なにするの?」
「美波ってピアノ弾ける?」
「……ちょっとだけなら」
「俺もちょっとだけ」
とか言いながら、上手いし!
埃で所々汚れている鍵盤の上を、細長い指がしなやかに踊るように動いている。
男性の割に、綺麗な指。
つられるように、私も指を動かした。
「この曲知ってる?」
「”GLASS HEART”でしょ、Keyの」
「そうそう、あれ? 美波ってKeyの曲、詳しかったっけ?」
「違っ、たまたま知ってただけ!」
「ふぅーん」
やだな、顔が熱くなる。
壱哉が好きかもと思って、Keyの曲を色々聞いたなんて恥ずかしくて言えない。
「この曲、2番の歌詞がいいよな」
「うん」
人は誰だって傷つきやすい心を抱えている。
突然の嵐に、降りやまない雨に、気付かないふりはしないで。
辛いなら叫べばいい。
どんな時でも、僕は君の傍にいるから。