「ただ、    」



用意が良いんだか、悪いんだか。

ソーイングセットを借りたのなら、その人にやってもらえばいいのにと、文句を言いながらも針に糸を通す。裁縫は昔から好き。


「おおー、さすが美波!」

「ほんと、美波ちゃん器用だね」

「美波は料理も得意なんだよね、良いお嫁さんになれるよな」

「やめてよ、恥ずかしいから」


博貴が言うと、ただの身内自慢に聞こえる。

しかも、声が大きいから周りに人が集まってきて(単に、博貴と喋りたいだけだと思うけど)ゼッケンの縫い付けが終わった体操服を広げ、あーだこーだ言っている。

嫌だなぁ、なんか見せ物みたいで。

博貴に絡まれると、いつもこうなるし、女子の反感を買いやすいから困るんだよなぁーと思っていたら。


「……うるせ」


それまで机に突っ伏していた壱哉が、ガタッと音を立てて上半身を起こした。

壱哉……?


「え、ごめんね。うるさかった?」


博貴が謝る。

すると、周りにいた女の子たちが不満そうな声をあげた。


「そうかな、普通じゃない?」

「うん、別にこれくらい良いよね」

「ていうか、小湊くんも一緒に喋ろうよ。久々だよね、学校に来たの」

「うんうん、せっかく来たんだし喋ろ」


そんな彼女たちの誘いを遮るように立ち上がった壱哉は、不機嫌な様子を隠すことなく。


「寝てらんねぇーわ、まじで」


そう言い残して、後ろのドアから出て行った。