末っ子なら誰もが想像したことがあると思うけど、もしかしたら自分は赤ちゃんの頃に橋の下に捨てられていた子で、本当の両親は別にいる。
っ、てやつ。
私は割と本気で、そう思っていた。
厳しくて遊んでくれたことはおろか、笑いかけてくれたことすらないお父さん。
美容とお洒落にしか興味のないお母さん、出来損ないの私を妹だと認めていないお姉ちゃん。
劣等感は常にあり、家ではいつも浮いている。
「よっ! おはよ!」
「痛ぁ」
通学路の途中、ぼんやり歩いていると、後ろから急に背中を叩かれた。
こんなことをする奴は1人しかいない。幼馴染の博貴だ。
「相変わらずボサッとしてんな」
「うっさいなぁ」
「あれ、つーか何聴いてんの?」
耳にイヤホンを付けていたのを、目ざとく見つけた博貴は、ひょいっと取り上げて自分の耳に付けた。
慌てて取り返そうとしたけど、間に合わず。
ならなくていいのに、顔が熱くなる。
「へぇ、Keyじゃん。こういうの、好きだったっけ?」
「たまたまだよ」
「ふぅーん」
やだなぁ、恥ずかしい。
別にKeyの曲を聴いていたところで、そんなの私の自由だし、博貴に何か言われることもないんだけど。
強いて言うならば、自分で自分が恥ずかしい。
なんかさ、恋する乙女みたいじゃない?
そんなキャラじゃないのに、壱哉の声を思いだしてドキドキする。



