「ごめんなさい、実は」

「それって、12時過ぎですよね? 実は美波の部屋に大きなネズミが出て大変だったんですよ。な、美波」


素直に謝ろうとしたのを遮って、咄嗟の嘘を付いてくれたのは、隣の席にいる大貴くんだった。

テーブルの下で、私の手を握り”話を合わせろ”とばかりに合図する。


「う、うん。大きくてびっくりした」

「僕はちょうどトイレに行こうとしたところだったんですけど、部屋から半泣きの美波が飛び出してきて心臓が止まるかと思いましたよ」

「あはは、ごめん」


あ、やばい、声が裏返った。

せっかく大貴くんが上手に誤魔化してくれているのに、私ってば嘘が下手すぎる!

お父さんは、黙ったまま食事を続けている。

渋い顔をしているのか、笑っているのか、いや笑っているわけがないか、と小さく溜息を吐いた時、「そうか、ネズミが」と呟く声が聞こえた。


「中田、今日中に駆除会社に連絡を入れなさい」

「かしこまりました」


ほっとしたのは、言うまでもない。




――昨日。

壱哉とお喋りをしているうちに、門限の時間なんてあっと言う間に過ぎて。

バイクで家の近くまで送ってもらった頃には、日付が変わる12時近くになっていた。


『本当に家の前まで行かなくていいのか』

『うん、すぐそこだから』

『じゃぁ、またな』

『うん』