目が腫れてる。

きっと寝不足のせいだ。

鏡の前で自分の顔を眺めていた私は、数時間前のことを思い出して顔が熱くなった。

まだ、唇に感触が残っている……。


「美波お嬢様、朝食の準備が整いました」

「分かった。今、行く」


お手伝いさんの呼びかけに、できるだけ平常を装った明るい声で返事をし、もう1度、鏡で自分の顔を眺めてから部屋を出た。

ちなみに、自分の顔もあんまり認識できないのだけど、目、鼻、口といったパーツを見ることはできる。

ただ、全体のバランスは分からないから、メイクはしない。

髪もまっすぐおろしたまま。

本当はサリーちゃんみたいに巻いたり結んだりしたいけど、似合うかどうか判断できないから、いつも無難な髪型にしてもらっている。


「おはようございます」


リビングに降りると、既にお父さんお母さんとお姉ちゃん、それから大貴くんが食卓に着いていた。

執事の中田さんが椅子を引いてくれるのを待って、腰を下ろす。

甘い香りがする紅茶に手を伸ばしたところで、お父さんが口を開いた。


「昨夜は美波の部屋から随分と物音がしていたが、どうかしたのか」

「えっ……と」


お父さんは神経質で眠りが浅い。

気を付けたつもりだったけど、やっぱりバレて……。