ほんと意地悪なんだからって、壱哉の脇腹を指で突く。
すると、思いの外くすぐったかったのか、体をくねらせた彼は私の腕を掴んで、仕返しとばかりに手を伸ばしてきた。腰辺りを掴まれ慌てて上半身を起こす。
その後ろでクスクス笑う声が聞こえる。
「腰が、弱いんだ」
「弱いのはそっちでしょ」
やだなぁ、もう、顔が熱い。
別にこんなの、ただのじゃれ合いなんだから、ドキドキする必要なんてどこにもないのに、頭とは違う反応を心がみせ、激しく動揺する。
ただの同級生だし、だたのクラスメイトだし。
私が好きなのは大貴くんで、ドキドキしちゃうのは、きっと異性に対して免疫が少ないだけだし、なのに、ああもう。
ゆっくりと上半身を起こした壱哉が、私の肩に腕を回してきたせいで、かき集めた言い訳が散り散りに飛んでいく。
残ったのは、頬の熱さと。
シトラスの香り。
「”初恋”」
「え?」
「さっきの、Keyの初恋って曲」
「あぁ、そうか。そうだった。うん、Keyのね」
「最近人気だよな、好き?」
「うん、す、き……」
好きだよ、の合間、唇に柔らかいものが触れた。
さっきよりも強く香るシトラスに、頭がくらくらする。体中が熱い。
甘く痺れるようなキスをしながら、
”初恋”は、特別な曲になるだろうと、そんなことを考えていた。



