「なんだよ、そんなシケた面するなよ」
「私、そんな顔してる?」
「俺は別に同情してほしいわけじゃないし、あんただってそうだろ。多少不幸で、人よりは不自由なこともあるけど、それが自分の宿命だって思えば大したことねぇよ」
宿命だと思えば、か。
そんな風に考えたことない。
強い人なんだな、壱哉は。
「ライブハウスで働いてるのは、音楽が好きだから?」
「それもあるけど、あそこは叔父さんが経営してるんだよ。人手不足だから手伝えって言ったまま旅に出ちゃって1年も帰ってこねぇーの」
「なにそれ、自由すぎる」
「だろ」
瞼を閉じると、壱哉がギターを弾いている姿が浮かんだ。
歌声も頭の中で静かに蘇る。
CMなんかでよく聴く好きな曲だけど、タイトルは何だっけな?
そんなことを考えていると、まさにその曲を壱哉が鼻歌で歌い始めた。
夜風に乗って優しく響く。
しばらく聴いていたけど、我慢できなくなった私は、壱哉の腕を揺らした。
「ねぇ、それなんて曲だっけ?」
「んー」
「教えてよ。ここまで出てきてるんだけど、思い出せなくてモヤモヤする」
「そういうのは自分で思い出した方が、脳トレに良いっていう統計結果が、」
「もう、茶化さないでよ」



