「遠くでも問題なく見えるんだな」
「視力は2,0だよ」
「人の顔が見えないってどんな感じ?」
「うーん、初めは不安だったけど、今は慣れたかな。特徴とか覚えるのにちょっと疲れちゃうけどね。覚えても間違えちゃうことあるし」
「学校だとみんな同じ制服だし、髪型も似たり寄ったりだしな」
「そうなの! だから学校では出来るだけ話さず、お淑やかなキャラで通すことにしてる。墓穴を掘らないようにね」
「涙ぐましい努力だな」
壱哉は軽い口調でそう言うけど、嫌味な感じは少しもなく。
んんっと大きく伸びをして、その場に寝転んだ。風に揺れる髪が柔らかく踊る。
「壱哉は? どうしてバイトばっかりしてるの?」
「んーどうしてかなぁ」
「真面目に答えて」
人のことばっかり聞いてずるい。
寝転んでいる壱哉が気持ちよさそうで、私も同じように仰向けになると、隠れんぼをしていた月が雲から顔を出したところだった。
「弟がまだ小さいんだよ」
「いくつ?」
「小4。うちは両親がいないし、弟は体が弱いから、俺が病院代を稼ぐしかないんだ」
「そうなんだ……なんていうか、」
大変だね、なんて言葉は相応しくない気がする。
苦労してるんだね、偉いんだね、頑張ってるんだね……どれも違う。
壱哉は今、どんな顔をしているのだろう。



