「(ここは、)」


所謂、ライブハウスというところなんだろう。

音楽が始まると同時に照明がステージに当たり、演奏している人たちが見えた。そのステージに向かって、客席にいる人は手を叩いている。

曲はどこかで聴いたことがあるから、おそらくカバー曲。

お世辞にも上手とはいえない。

でも、


「(優しい、声……)」


ヴォーカルの声は男性なのに透き通っていて、それでいて甘くハスキーで、鼓膜から脳まで痺れさせられるような魅力があった。

高音の伸びも、低音の響きも。

息継ぎの瞬間でさえ、心地いい。

聴き惚れるってこういうことをいうんだろうな。


そのあと、アップテンポな曲とメロウな曲が続いて、観客は縦に揺れたり横に揺れたり、時には合いの手を打ったりして盛り上がっていたけれど。

私はただ、ただ、ヴォーカルの声に耳を澄ませ、じっと目を閉じていた。






これが、壱哉(いちや)との出会い。