「ただ、    」



私がこの病気になったのは小学生の頃で、ある日突然、それまで普通に見えていた人の顔が見えなくなってしまった。

目があって、鼻があって、口があって、と何となくの造形は、分かる。

でも、それらを注意深く見ようとすればするほど、モザイクが掛かったようにぼやけてしまうのだ。

それは他人だけでなく、両親の顔も、お姉ちゃんの顔も、大貴くんも見えない。

だから数年前の記憶にある顔のまんま。

記憶にない人は、どんな顔をしているのか、さっぱり分からないので、声や髪型、服装、仕草、雰囲気などで見分けるようにしてるけど、親しい人以外は先に名乗ってくれないと区分けがつかない。

――と、こんな話をすると大抵は引かれたり、面倒くさそうにされたり、あるいは可哀想だと言われるのだけど、


「人の表情が分からないってことはさ、余計な気を遣わなくて済むからいいよね」

「うーん、まあ、そうかな?」

「そうだよ。私なんていつも人の顔色を窺う癖があって、嫌な顔とかされたらすぐ傷ついちゃうから、そういう時は見れない方がいいなって思う」

「なるほど……」


サリーちゃんみたいに、ポジティブに受け止めてくれた子は、初めてだ。


「あ、そろそろ演奏始まるよ」

「サリーちゃん、ステージに行かなくていいの?」

「今日はお客だよ。別のバンドが出るんだけど……ん、やっぱり壱哉もいるね」