「ただ、    」



壱哉に名前を呼ばれ、振り向いたのは髪の毛をクルクルに巻いている子だった。

私の姿を見つけ、「美波ちゃんだぁ!」と、タックルする勢いで抱きついてくる。甘い匂い。このフローラルは、確かにサリーちゃんだ。


「来てるなら声、掛けてくれたらよかったのに!」

「こいつ、サリーの顔を覚えてなかったんだぜ」

「えー、そうなの? 割と特徴のある顔だと思うんだけどなぁー」


お口が大きくて、前歯も大きいからビーバーって言われるんだよねって、クスクス声に出して笑う。

確かにその特徴を見ることができたら、忘れないんだろうけど。


「ごめんね、私、他人の顔が覚えられないんだ」

「え、そうなの?」

「相貌失認症って知ってる?」

「そう、ぼう……?」

「脳障害の1つで、人の顔を認識できないの。今、こうしてサリーちゃんの前にいても、サリーちゃんがどんな表情をしてるかは、分からないんだ」

「そんな障害があるんだね。顔以外は見えるの?」

「うん、髪型とか服装は分かるよ。視力も普通に良いし。サリーちゃんはこの前、ツインテールだったから、それだとすぐ分かったはずなんだ」

「そっか! じゃぁ美波ちゃんに会う時はツインテールにするね!」


歌うように朗らかな声。

なんていい子なんだろう、サリーちゃん。