「ただ、    」



「あ、美波お嬢様。今、お茶とケーキをお持ちしようとしたところで」

「いいよ、私が持っていく」

「蓮見の坊ちゃまは、今宵お泊りですかな?」

「多分、そうじゃないかな」

「はぁ……最近、毎日ですな。婚約にこぎつけるまで気が抜けないお様子で」

「中田さん、そういうの口に出したらダメだよ」

「これはこれは、失礼しました」


うちが普通じゃないと分かったのは、つい最近のこと。

お姉ちゃんと大貴くんの婚約の話があがってから、古株の使用人の間で含みを持たした言い方をする人が増えたからだ。

それなりに裕福な家同士がくっつくには、内部の面倒な権力争いがあるらしい。

ただ、好きな人がいて、両想いになって。

結婚する。

そんなシンプルなことが許されない家なんだ。


とはいえ、


「大貴くん、お茶持ってきたよ……、って居ないし」


トイレにでも行ったのかな。

お茶とケーキを机の上に置いて、廊下に出るとお姉ちゃんの部屋のドアが少し開いていることに気付いた。

明りも付いていて、話し声も聞こえる。

なんだ、お姉ちゃんもう帰ってきたんだ。

もう少し大貴くんを独り占めできると思ったのになぁーと、残念に思いながらお姉ちゃんの部屋のドアノブに手を掛けた時。


部屋の中で抱き合って、キスしているふたりが見えた。

お姉ちゃんの手が大貴くんの背中をギュッと掴み、大貴くんは優しく何度もお姉ちゃんの髪を撫ぜている。



ずるいよ……。


ただ、好きな人がいて、両想いになって。

結婚する。

そんなシンプルなことが許されない家なんだ。


とはいえ、お姉ちゃんは好きな人と結婚するんだ。