「ただ、    」



たまたま、車の窓から見えた夕日が綺麗だったからだよ。

ほんの少しだけ眺めていたくて、車を停めてもらって、ちょっとだけ歩こうとしただけなのに、どこまでも付いてくるから鬱陶しくなって、走って逃げたら追いかけられて……、

それで、あのライブハウスの前に迷い込んだんだ。


「まぁ、美波がお転婆なのは、今に始まったことじゃないけどな」

「好奇心が人より強いだけだよ」

「遊びに行きたいときは、俺か博貴を呼びなさい。いいね?」

「はーい」


大貴くんは、分かっていない。

この家で、どれだけ私が窮屈な思いをしているか。

そしてこれからも、どれだけの嫉妬と苦しみを味わっていかないといけないかも。

お嬢様の気晴らし?

そんなんじゃないよ。


「お茶、入れてくるね。ケーキも食べるでしょ?」

「おう、サンキュ」




うちの家は、裕福だ。

どれくらいかって聞かれると分からないけど、家族でよく泊まるホテルが父の物だったり、海外に別荘がいくつかあったり、移動に使う外車には運転手がいたり。

お手伝いさんがいて、庭師がいて、秘書の人が家を出入りしていて。

礼儀作法の先生や家庭教師、スポーツトレーナーが毎日のように家に来て……っというのが普通だと思っていた。

大貴くんや博貴の家もそうだったし。